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横浜地方裁判所小田原支部 昭和42年(ワ)28号 判決 1968年2月27日

原告

株式会社高橋電気商会

ほか二名

被告

有限会社豊嶋運送店

主文

被告は原告株式会社高橋電気商会に対し金二五万九六一〇円、原告吉田清に対し金一八万一四五四円、原告吉田英武に対し金三万一五一〇円及びこれらに対する昭和四二年二月七日から完済に至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

原告吉田清及び原告吉田英武のその余の請求をいずれも棄却する。訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告株式会社高橋電気商会が金八万円の担保を供するときに、その余の原告は無担保で、当該原告に関する部分(但し原告吉田清及び原告吉田英武に関してはその勝訴部分)を仮りに執行することができる。

事実

原告等訴訟代理人は「被告は原告株式会社高橋電気商会に対し金二五万九六一〇円、原告吉田清に対し金一八万一六九四円、原告吉田英武に対し金六万一五一〇円及びこれらに対する昭和四二年二月七日から完済に至るまで各年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告株式会社高橋電気商会(以下原告会社という)は、二で述べる交通事故の被害車の所有者、原告吉田清は原告会社の従業員で右交通事故の際被害車を運転していた者、原告吉田英武は原告吉田清の実兄で被害車に同乗していた者、被告有限会社豊嶋運送店(以下被告会社という)は右交通事故の加害車の所有者であつて自己のために自動車を運行の用に供した者、訴外崔柄賛は被告会社の従業員で右加害車の運転者である。

二、原告吉田清は、昭和四一年四月二四日一三時四〇分頃、原告吉田英武の同乗する原告会社所有のダツトサン小型トラツク三二〇型(足四の一四四六)を運転して東京方面から小田原方面に向つて国道一号線の小田原市網一色二九三番地先城東高校前路上に差しかかり、同所で信号待ちして一時停車中、崔柄賛の運転する被告会社所有のトラツク(神戸一か〇六六九)に、時速約五〇ないし六〇キロメートルの速度で激しく追突され、そのため被害車は突進して前方右向側の、東京方面へ向つて同じく信号待ちして一時停車中の日の丸自動車観光バスに衝突した(二重衝突)。

その際、原告吉田清は、通院加療一ケ月を要する前額部擦過創、頸部、右肘部打撲を受けて意識不明となり、救急車で小田原市浜町一丁目四番一五号所在の仁天堂病院に運ばれ、原告吉田英武は、全治五日を要する左示指、右下腿擦過創を負い、原告会社所有の被害車はフロントキヤブ、ハンドルボツクス、バンバー等に多大な損傷を受けた。

三、右交通事故は、加害車の運転者崔柄賛の信号無視(前方不注視)、いわゆるわき見運転によるものであることが明白であり、それが崔柄賛の過失であることはいうまでもなく、また右過失による本件交通事故は被告会社の事業の執行に関して生じたものであるから、被告会社は本件交通事故によつて原告等が被つた損害のすべてを賠償する責任がある。

四、原告会社が本件交通事故によつて被つた損害は次のとおりである。

1. 被害車の修理代 金一四万五〇〇〇円

2. 被害車の使用不能により被つた損害 金八万円

被害車の破損とその修理のため原告会社は一六日間にわたり同車使用不可能の状態に置かれたが、それによつて被つた損害は、同型トラツクの一日の賃貸料金五〇〇〇円の割合により計算した一六日分である。

3. 示談のため要した費用 金九六一〇円

原告会社は、被告会社に対して何度も被害弁償を申し入れたがそれに応じないので、原告会社総務課長代理訴外岩永茂を被告会社に赴かせたが(岩永茂は原告吉田清と同行)、それに要した費用は、交通費金七一六〇円(列車金六六六〇円、電車、タクシー金五〇〇円)、宿泊費金二四五〇円の合計である。

4. 本件訴訟手続のための弁護士費用 金二万五〇〇〇円

着手金五万円の内金である。 総計金二五万九六一〇円

五、原告吉田清が本件交通事故によつて被つた損害は次のとおりである。

1. 治療費等 金一万二二〇〇円

原告吉田清は、本件交通事故により前述のような傷を受けたが、その治療代および診断書作成費用金八四〇〇円、通院のためのタクシー代金三〇〇〇円(五〇〇円宛六回分)、同バス代金八〇〇円(八〇円宛一〇回分)の合計

2. 労働不能による得べかりし利益(休業補償) 金三万四八八四円

原告吉田清の、その勤務先である原告会社における月例給与は金四万五九〇〇円であつたところ、同原告は本件交通事故による受傷のため昭和四一年五月一四日まで一九日間の欠勤を余儀なくされ、給与のその期間相当分金三万四八八四円(金四万五〇〇〇円の二五分の一九)の支払を受けることができなかつた。これは本件交通事故がなければ同原告の得べかりし利益である。

3. 慰謝料 金一〇万円

原告吉田清の、本件交通事故による意識喪失、後頭部の脳内出血のおそれ、長期の会社欠勤、損害賠償に関する被告会社の不誠意等による精神的、肉体的苦痛は著しく、それに対する慰謝料としては金一〇万円が相当である。

4. 示談のために要した費用 金九六一〇円

被告会社は、本件損害の賠償に全く誠意を示さないので、原告吉田清は、原告会社総務課長代理岩永茂と被告会社に示談折衝に赴いたが、それに要した費用は、交通費金七一六〇円(列車金六六六〇円、電車、タクシー金五〇〇円)、宿泊費金二四五〇円の合計である。

5. 本件訴訟手続のための弁護士費用 金二万五〇〇〇円

着手金五万円の内金である。 合計金一八万一六九四円

六、原告吉田英武が本件交通事故によつて被つた損害は次のとおりである。

1. 治療費等 金一一〇〇円

原告吉田英武は本件交通事故により前述のような傷を受けたが、その治療代及び診断書作成費用

2. 労働不能による得べかりし利益(休業補償)金一万〇四一〇円

原告吉田英武は、ミランダカメラ株式会社に勤務するものであるが、昭和四一年四月分の見込給与は金四万五一三三円であつたところ、本件交通事故による受傷のため昭和四一年四月二五日から同月三〇日までの六日間欠勤を余儀なくされ、給与のその期間相当分金一万〇四一〇円を失つた。これは本件交通事故がなければ原告吉田英武の得べかりし利益である。

3. 慰謝料 金五万円

原告吉田英武の本件交通事故による精神的苦痛に対する慰謝料としては金五万円が相当である。 合計金六万一五一〇円

七、よつて、被告会社に対し、本件交通事故による損害賠償として、原告会社は金二五万九六一〇円、原告吉田清は金一八万一六九四円、原告吉田英武は金六万一五一〇円及びこれらに対する本件訴状送達の翌日である昭和四二年二月七日から各完済に至るまでいずれも法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告会社は口頭弁論期日に出頭せず、その提出に係り陳述したものとみなされる答弁書には、「原告等の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求める旨及び答弁として「原告主張の請求原因一の事実は認めるが、その余の原告主張事実は全部否認する。」との記載がある。

〔証拠関係略〕

理由

一、原告会社が二で述べる交通事故の被害車の所有者、原告吉田清が原告会社の従業員で右交通事故の際被害車を運転してた者、原告吉田英武が原告吉田清の実兄で被害車に同乗していた者、被告会社が右交通事故の加害車の所有者であつて自己のために自動車を運行の用に供した者、訴外崔柄賛が被告会社の従業員で右加害車の運転者であることは当事者間に争いがない。

二、〔証拠略〕によれば、次のような事実を認めることができる。すなわち、原告吉田清は、昭和四一年四月二四日一三時四〇分頃、原告吉田英武の同乗する原告会社所有のダツトサン小型トラツク三二〇型(足四の一四四六)を運転して東京方面から小田原方面に向つて国道一号線の小田原市網一色二九三番地先城東高校前十字路交差点に差しかかり、同所で信号待ちして一時停車した。崔柄賛は前日被告会社所有のトラツク(神戸一か〇六六九)で被告会社の運送事業の執行として引越荷物を兵庫県伊丹市から東京都へ運搬したその帰途、右自動車を運転して前記日時に前記場所に差しかかり、原告吉田清運転の自動車に続いて二〇メートル位の間隔を置いて時速五〇キロメートル位で右交差点を通過しようとした。ところが、崔柄賛は一瞬前方から目を外らせ隣席の訴外森俊文に向つて「いけるな」と話しかけたために、再び目を前方に戻して原告吉田清運転の自動車が停車しているのを発見した時には、その間隔は四~五メートルしかなく、急制動をかけるも及ばず、そのまま追突し、そのため被害車は突進して前方右向側の、東京方面へ向つて同じく信号待ちして一時停車していた日の丸自動車観光バスに衝突した(二重衝突)。その結果、原告吉田清は前額部擦過創、頸部、右肘部打撲を受けて意識不明となり、救急車で小田原市浜町一丁目四番一五号所在の仁天堂病院に運ばれ、原告吉田英武は左示指、右下腿擦過創を負い、原告会社所有の被害車はフロントキヤブ、ハンドルボツクス、バンバー等に多大な損害を受けた。以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

三、右一、二の事実によれば、被告会社は自動車損害賠償保障法第三条の規定により、原告吉田清及び同吉田英武が前記受傷によつて被つた損害を賠償する義務があり、また本件交通事故につき崔柄賛には前方不注視の過失があるというべきであり、その使用者である被告会社は民法第七一五条の規定により、原告会社がその所有の自動車の前記損傷によつて被つた損害を賠償する義務がある。

四、原告会社が本件交通事故によつて被つた損害は次のとおりである。

1. 〔証拠略〕によれば、被害車の修理代として金一四万五〇〇〇円を要した事実を認めることができる。

2. 〔証拠略〕によれば、被害車の破損と修理のため原告会社は一六日間にわたり同車使用不可能の状態に置かれ、そのため原告会社は他から同型トラツクを一日金五〇〇〇円の割合で賃借し、その一六日分の賃料金八万円を支出した事実を認めることができる。

3. 〔証拠略〕によれば、原告会社が被告会社に対して何度も被害弁償を申し入れたがそれに応じないので、原告会社総務課長代理訴外岩永茂を被告会社に赴かせたが(岩永茂は原告吉田清と同行)、その費用として交通費金七一六〇円(列車金六六六〇円、電車、タクシー金五〇〇円)、宿泊費金二四五〇円、計金九六一〇円を支出した事実を認めることができる。

4. 〔証拠略〕によれば、原告会社は本件訴訟手続のため、原告吉田清と折半で、原告等訴訟代理人である弁護士杉本昌純に対して着手金五万円を支払つた事実を認めることができ、原告会社の損害は右金五万円の半分の金二万五〇〇〇円である。

以上原告会社の損害は総計金二五万九六一〇円である。

五、原告吉田清が本件交通事故によつて被つた損害は次のとおりである。

1. 〔証拠略〕によれば、原告吉田清が前記受傷により、その治療代及び診断書作成費用金八四〇〇円、通院のためのタクシー代金三〇〇〇円(五〇〇円宛六回分)、同バス代金五六〇円(八〇円宛七回分)、計金一万一九六〇円を支出している事実を認めることができ、原告吉田清本人尋問の結果中、バス代金は一〇回位支出した旨の供述部分は、甲第八号証に照らし信用できず、他にバス代金がさらに金二四〇円支出されている事実を認めるに足りる証拠はない。

2. 〔証拠略〕によれば、原告吉田清のその勤務先である原告会社における月例給与は金四万五九〇〇円であつたところ、同原告が本件交通事故による受傷のため昭和四一年四月二五日から同年五月一四日まで一九日間の欠勤を余儀なくされ、給与のその期間相当分金三万四八八四円の支払を受けることができなかつた事実を認めることができる。これは本件交通事故がなければ同原告の得べかりし利益である。

3. 〔証拠略〕によれば、原告吉田清が本件交通事故によつて一時間半程意識を失い、昭和四一年四月二四日から同年六月八日までの間に一三回、小田原市浜町一丁目四番一五号仁天堂病院に通院して治療を受け治癒したが、現在でもなお季節の変り目に頭が重くなつて目まいがしたり、頸がつつたりし、頭部受傷による後遺症が発生しなければよいがと恐れていること及び被告会社が損害賠償に関して誠意のある態度を示してくれていないことを認めることができ、原告吉田清本人尋問の結果中右認定に反する部分は信用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右認定事実その他諸般の事情を考慮するときは、原告吉田清がかなりの精神的、肉体的苦痛を受けたものということができ、同原告の本訴請求中、慰謝料として金一〇万円の支払を求める部分は相当である。

4. 〔証拠略〕によれば、被告会社が本件損害の賠償に誠意を示さないので、原告吉田清が原告会社総務課長代理岩永茂と被告会社に示談折衝に赴いたが、そのために交通費金七一六〇円(列車金六六六〇円、電車、タクシー金五〇〇円)、宿泊費金二四五〇円、計金九六一〇円を支出した事実を認めることができる。

5. 前記四、4に述べたところにより、原告吉田清は本件訴訟手続のための弁護士費用として金二万五〇〇〇円を支出している。

以上原告吉田清の損害は総計金一八万一四五四円である。

六、原告吉田英武が本件交通事故によつて被つた損害は次のとおりである。

1. 〔証拠略〕によれば、原告吉田英武が前記受傷により、その治療代及び診断書作成費用として金一一〇〇円を支出している事実を認めることができる。

2. 〔証拠略〕によれば、原告吉田英武がミランダカメラ株式会社に勤務するものであつて、昭和四一年四月二一日から同年五月二〇日までの見込給与が金四万五一三三円であつたところ、前記受傷のため昭和四一年四月二五日から同月三〇日までの六日間欠勤を余儀なくされ、給与のその期間相当分金一万〇四一〇円を失つた事実を認めることができる。これは本件交通事故がなければ同原告の得べかりし利益である。

3. 〔証拠略〕によれば、原告吉田英武の前記傷が治癒するには一週間かかり、同原告の担当していた測定器の作業ができるようになるまでには二〇日を要し、膝の傷のために風呂に入れるようになるまで一ケ月を要した事実を認めることができる。右認定事実その他諸般の事情を考慮するときは原告吉田英武の前記受傷による精神的苦痛に対する慰謝料としては金二万円が相当である。

以上原告吉田英武の損害は総計金三万一五一〇円である。

七、以上によれば、被告会社は本件交通事故による損害賠償として、原告会社に対して金二五万九六一〇円、原告吉田清に対して金一八万一四五四円、原告吉田英武に対して金三万一五一〇円及びこれらに対する、本件訴状が被告会社に送達された日の翌日であることが本件記録により明らかな昭和四二年二月七日から各完済に至るまで法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。しかしながら原告吉田清及び同吉田英武の各本訴請求中右金員を超えて支払を求める部分は失当である。

八、よつて、被告会社に対する原告会社の本訴請求のすべてを認容し、被告会社に対する原告吉田清及び原告吉田英武の各本訴請求については、前記七の理由ある部分を認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石井敬二郎)

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